慰謝料と時効の法律問題について弁護士が解説しています。
Q 慰謝料の請求権の時効期間を教えてください。
一方、セクハラ、労災事故、婚約破棄などのように、相手との雇用契約や婚姻予約契約など、契約上の債務不履行を理由とする慰謝料請求の場合には、権利行使が可能になる時点から10年間となります。たとえば、労災事故の場合には、事故日から起算して10年間となります。
法律構成 | 事案の種類の例 | 時効期間 |
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不法行為 (契約関係を前提としない場合) |
交通事故、離婚・不倫、刑事事件 | 損害・加害者を知ってから3年間 |
債務不履行 (会社に対する安全配慮義務違反など、契約関係を前提とする場合) |
セクハラ、労災事故、婚約破棄 | 権利行使可能時から10年間 |
Q 慰謝料の時効期間が経過する前に、どういう手続をとればよいのですか?
時効期間を経過するまでに、相手と示談する見込みがない場合には、時効中断のための手続をとる必要があります。時効中断事由は、民法に限定的に列挙されており、代表的なものが、裁判上の請求です。相手が自分の非を認めておらず、または損害額で合意できない場合には、裁判を提起して時効を中断することになります。
また、債務者による承認も有力な時効中断事由です。たとえば、すぐには慰謝料を支払えないが、「100万円の慰謝料の支払い義務があることを認めます。」という書面へのサインや、口頭での発言は、承認に該当します。また、任意に、慰謝料額の一部の弁済をする場合にも、承認に当たります。
なお、差押え、仮差押え、仮処分などの強制執行手続や、財産の保全手続も、同様に時効中断事由となります。
実務上、裁判の準備のために、一定の期間が必要なため、時効を一定期間猶予するものとして、催告があります。たとえば、交通事故被害者が、加害者に対し、事故から2年10か月経過時に、内容証明郵便で請求書を送付すると、時効の完成が6か月間猶予され、事故から3年4か月経過するまでは、時効が完成しないことになります。ただし、3年4か月経過時までに示談が成立する見込みがない場合には、正式に裁判を起こす必要があります。
とくに、セクハラや性犯罪など、被害者が被害を申告するのを一定期間ためらっているような場合には、時効期間が経過してしまうおそれがあります。被害を受けた際は、あとから時効の成立で後悔しないように、早めに弁護士に相談しましょう。
時効中断事由 | ●裁判上の請求 ●差押え、仮差押え、仮処分 ●債務者による承認(一部支払いも含む。) |
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時効完成猶予事由 | ●内容証明郵便による催告(中断するためには、催告から6カ月以内の裁判上の請求が必要。) |
Q 時効期間が経過してしまいました。相手に慰謝料を請求することはできないのでしょうか?
その方法が、相手から債務の承認をしてもらうというものです。時効期間経過後であっても、相手が債務を承認すれば、相手はもはや時効を援用することはできなくなります。
具体的には、相手が、時効完成したことは知っているが、道義的な責任として支払おうと考えて承認した場合には時効利益の放棄として、時効を援用できなくなります。一方、相手が、時効が完成していることを知らずに、うっかりと「お金がないので、あと1カ月待ってください。」という発言をしたり、慰謝料の一部を支払ったりした場合には、信義則上、時効援用権の喪失として、時効を援用できなくなります。
信義則とは、一般の方には聞きなれない言葉かもしれません。要するに、いったん支払うと発言し、または一部を支払ったにもかかわらず、時効を根拠にして支払いを拒絶することは、矛盾した態度であり、このような者を法律が時効を理由として保護することは道義的に許されないという意味です。
いずれにしても、時効期間経過後であっても、相手から債務についての承認ととれる発言を引き出し、または慰謝料の一部の支払いを受ければ、相手は今後、時効を理由に慰謝料の支払いを拒絶することができなくなります。
このような結果を得るためには、法律の専門家が関与した上で、相手との交渉のための綿密な戦略を練る必要があります。時効期間が経過してしまったが、相手に請求したいという場合には、自力で解決しようとせず、弁護士にご相談ください。
時効利益の放棄 | 時効完成の事実を認識していることが必要。 |
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時効援用権の喪失 | 時効完成の事実を知らなくても、信義則上、時効を援用できない。 |